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へし切長谷部(さかき)  江雪左文字(花)   太郎太刀(さゆ)  岩融(煉) 




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へし切長谷部―――執筆者 さかき



あまりにも帰りが遅い、幾らなんでも遅い。みなが寝静まる頃には戻ってくるだろうと思って早数時間、起きているのはもはや俺一人だ。まさかその身に何か起こったのでは? 帰路かそれとも気乗りのしない宴会ごときでなにか。かどわかされたか! と気を揉んだそのときだった。上り口近くに坐して控えていた耳になにやら低い声が聞こえてきた。屋敷の門前でだれかが開門を願い出ている。こんな時刻にだれだ、とうに施錠を終えている! どんな不躾な輩かと苦々しい表情で通用門をバタンと開けば、そこには他の本丸の刀剣が闇夜に紛れてそっと控えていた。見慣れた顔と馴染のない空気を纏い、こともあろうにその背後にはうちの主を担いでいた。唖然として口が利けない俺に向かって、彼はなめらかな口上で、空前絶後の非礼を詫びていく。

「まことに夜分遅く申し訳ありません。こちらの審神者様をお連れいたしました……少しお酒がよく回ったようで、まだお眠りになっておられます。どうやら、うちの審神者が無理に勧めてしまったようで。今後このようなことがないよう、きつく言い聞かせますので今日のところはお許しください」

顕現の場が異なればいかに見知った顔の刀剣であってもまったく別物、雰囲気こそ屋敷の者と似てはいるが、仕える主への口ぶりは聞いたことのない辛辣なものだった。その間、目覚めないうちの主はその刀剣の背に背負われたまま、幸せそうに眠っている。向こうに非があるとはいえ、他所様に向けるにはその姿はあまりにも無防備、あまりにも無頓着で顔から火が出そうになる。このような主君の痴態を前に俺が代わって平謝りすれば、向こうの刀剣もおなじだけ頭を下げる。

「いえ、よそさまの主人を私が送り届けてしまい申し訳ない。はぁ、彼にも困ったものです」

(中略)

「え、はせべ、やぁッ!」

腹につきそうなほど硬直した上向きのそれを、主の滑らかな下腹部にぐいと当てる。擦れた箇所がネトネトと糸をひいている。カウパー分泌の粘り気をわざと主張するように押しては離れ、離れては突きつけた。どうしようもない背徳行為、己の主を跪かせるなど謀反もいいところの荒行にいつになく気分は高揚する。こんなことを常日頃望んでいるわけではないが、今日ばかりは彼女に知らしめたい。
とうに日付を越えた夜更けの湯殿、すっかり酔いの冷めた瞳に微かな欲の色が宿るのを見逃す手はなかった。

「準備はできましたか」

さりげなく誘導して浴槽の縁に腰かけ、むりやり膝の上に跨がらせる。不安定な体勢のままで俺は口を開く。真正面で俺にしがみつく彼女は小さな抵抗を続ける。ふるふると首を横に振る仕草を無視して、支える振りをした片方の手で胸の突起をぎゅうと摘んだら、背中が大きくしなった。

「こちらも整っていますね」

弾む口調のまま躊躇いなく差し込んだ中指で、恥丘の奥の入口を大きく弧を描くようにして引っ掻く。すっかりと濡れそぼったそこは呆気なく俺の侵入を許してしまう。無意識の喘ぎを抑えようと歯を食いしばる姿に追い打ちをかけた。

「ああ、もっと奥がいいんですね」

遠慮なく指の長さぎりぎりまでずぷりと突っ込めば甲高い悲鳴が彼女からこぼれ落ちる。開脚姿勢のままで、より好い位置を整える俺の動きのせいで彼女の肢体から力が抜けていく。

「やっ、本当にやだ! やめて!」
「俺の指では物足りないと?」
「そういうことじゃな、くて」
「よもや、こちらをどなたかに触れられてはいませんよね?」
「そんなことあるわけないでしょ!」
「本当ですか」
「本当だから、あ……やぁッ、やめ」
「確かめなくてはいけませんか」
「や、あっ入っちゃ……、あ、ゃあん!」

小さな膨らみをポイント押さえてきゅっと摘まみ、ほら、と己の先端を彼女の割れ目にあてがった。迎え入れようとする肉の壁は先走りでぬめる亀頭に纏わりつき無意識に腰が動いている。形だけ押し返してくる腕に力はない。言葉以上の抵抗がないのは完全に身体を開いている証拠だと解釈した。






                 





江雪左文字―――執筆者 花


“負担は、ゼロではありません。常人には在り得ない変化を遂げるのですから”

神の定めた閾を凌駕する行為には、特段の代償が要る。一瞬の優越感と引き換えに、審神者は、おおくのものを捨ててここにいる。息を吸い込んで、吐いた。鉛のように重い腕をなんとか動かして、目の上に乗せる。抑え込むと、すこしましになる気がする。眩暈、頭痛。ああ、吐き気がする、身体中がきしんで、節々が痛む。
不快な音が聞こえてきて、脳に直接響いた。ぎりと奥歯をかみしめたところで、それはじぶんが上げるうめき声だと気づいて、苦笑した。
表情筋が笑みの形をつくると、こめかみが引き攣って痛むから、審神者は任務明けの数日はいつも仏頂面をしている。世界の不幸すべてを背負った気でいるほうが、今となっては何も与えてくれない“選ばれた立場”より、はるかに審神者を救った。
足元でそろりと襖が開く音がした。次いで、畳をそっと踏む気配が忍んで来る。

「お水を」

ちいさな声。最小限の言葉数も配慮のひとつ。声変わり手前の落ち着いた前田藤四郎のそれは、頭痛を誘発しない。子どもの声は脳に響くから、今日が彼なのは運が良い。
平素は薬研か乱が来るが、遠征にでも行っているのだろうか。己が決裁したはずの割り振りを脳裏に呼び起こそうとしたが、上手くいかない。
床を踏みしめる重さすら、ようよう息をしている状態だと身体に障るから、だいぶ前から、朝は一部の短刀に任せている。
体面上は、それを理由にしている。
薄目で見やると、小柄な影が襖を閉じて光を締め出し、暗闇に融けるところだった。執務室に隣接する寝室は、いつも、真っ暗に閉ざしている。ほんの少しの彩光すら、見えない棘となって半端なこの身体を痛めつける。少年たちはおしなべて夜目が利くから、ほとんど光がなくとも動きに困ることはなかった。しずしずと近づいてきた前田が、布団の下に引いた敷物の上で膝をつくのが気配でわかった。私は布団から腕を伸ばして、毛足の短いビロードの敷物に手のひらで触れる。滑らかな表面を指の平で辿ると、ちいさな膝頭に辿り着いた。軽く指で叩けば、それが合図となって、少年はするする膝を滑らせるように、傍らまでやってくる。彼が手にした鈍い銀の水差しが、わずかに光るのが見えた。

水差しの先端が、唇を冷やすのが心地よい。口を少し開くと、冷えた金属から水が滴って、からからに乾いた舌と、喉を潤していく。
くちびるから、水が少し零れる。

「申し訳ありません」

気配が動いて、ほそい指にくちびるを拭われた。その感触に、腰のあたりがじわりと揺れてしまう。いつもは、水差しを持つ逆の手に布をもち、溢れた水もそれで拭ってくれる。じかに肌が触れてくるのが珍しく、細く目を開けて近くにあるはずの前田の表情を探ろうとするが、闇に阻まれて届かない。

「薬研が、良いと申しましたので、」

やや掠れた声に、少年の揺れる感情が滲んでいた。躊躇いと、戸惑い、羞恥と、……あとは嫌悪だろうか。

「今日は、このままで居れば大丈夫だよ」

ようやく潤った喉が、今日はじめての言葉を発する。
こういったことは、たいていは薬研が、そうでなければ乱が請け負ってくれている。本丸には立派な大人の器を得ているものが多くいるのに、彼らを呼んだことはない。
彼らが紛うことなき男であるさまが、己の不足を明らかにしてしまうようで審神者は忌避した。そうして、それらの行為からは遠くにいるはずの子どもたちに縋った。

「いいえ、私に、させていただきたいのです」

大きな瞳の表面が潤んでいる。暗がりだからこそわかる。ほとんど彩光のない審神者の寝間では、身体が、瞳が、くちびるが、首筋が、下腹が大腿が、ぬるついて光るのが、明るい場所にいるより良く見えた。


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太郎太刀―――執筆者 さゆ



夜の本丸はとても静かだ。月明かりしかない世界に恐れを抱いた日もあった。今は違う。手を伸ばせばこの人がいる。わたしを見つめる目は、暗がりの中でもわかるほど、美しい金色をしている。大きな身体をしていてもわたしを引き寄せる手は優しく、繊細だ。

「震えていますね、怖いのですか」
「緊張…してるだけ…」

耳元で囁かれる声はいつもより柔らかくて、どこか甘さを含んでいる。心臓がうるさい。大好きな匂いに包まれているのに逃げ出したくなる。もう少し、猶予があればと、そんなことを考えてしまう。遠征から帰ってきたら、なんて安易に約束をしてよかったのだろうか。どうしようもなく不安になる。何もかもが初めてなのだ。撫でるように太郎太刀さんの手が身体を滑っていく。こんな風に誰かに触れられたことなんてない。ゆっくりとした動きがどんどん羞恥を引き出してくる。何をされるのだろう。どうなってしまうのだろう。不安が混ざった熱いため息が零れて出た。

「己がずっと慈しんできたものに、この様に触れてしまう日が来るとは…」
「嫌…?」
「それは私が貴女に聞く言葉です、拒むなら今のうちですよ」
「へ、いき…どうしたらいいか、わからないけど…」
「何もする必要はありません。ただ私に身を任せて、私の名を呼んでいるだけでいい」

抱き寄せられていた身体をゆっくりと倒される。太郎太刀さんの長い髪が落ちてくる。互いに密着したまま横たわり、始まりの合図のような口付けに目を閉じた。啄むようなそれは次第に深くなっていく。太郎太刀さんの舌が当たって、咄嗟に逃げてしまえば、追い立てるように絡められる。息が苦しい。上顎を擦られて肩が揺れた。

「は、っ、太郎太刀さ…」

呼吸すら飲み込むように太郎太刀さんは口付けてくる。舌が、吐息が熱い。頭がぼうっとしてしまう。身体に力が入らず、されるがまま、口付けを受け入れるしかできない。

「貴女は甘い…熟れた果実のようですね…」

ちらりと舌を覗かせながら太郎太刀さんは笑う。月明かりに照らされる中、満足げな表情が見えた気がした。男の人の顔だ。太郎太刀さんはとても綺麗なのに、今は何だか違う。美しさはそのままでも、いつもと違う雰囲気を纏っている。離れた唇は濡れたまま首筋に落とされた。また熱い舌が触れる。耳から鎖骨にかけて味わうように舐められて、時折吸い付かれる。変な声が出そうになるのを堪えていると、大きな手が身体を這った。

「あっ、だめ…!」
「もう遅いですよ、止まらない」
「太郎太刀さん…っ」

寝衣も上から胸を揉みしだかれて、同時に舌が胸元まで下りてくる。侵入してくる手が、指が、直接触れる感触に声が漏れてしまう。目を瞑って恥ずかしさを紛らわせようとしても、悦びの色が混じった太郎太刀さんの吐息に顔が熱くなる。わたしはこんなに羞恥を感じているのに、太郎太刀さんはとても楽しそうだ。






                 





岩融―――執筆者 煉



ぱちり、眼を開けた男は自身を起こした重みというには軽過ぎるそれに気づくとくつりと一人笑った。南向きに開け放たれた部屋の縁側で自分の晩酌に付き合うと言った少女は気持ち良さそうな寝息を立てて自分に寄り掛かっている。この屋敷で一番眺望の良い張り出したここからは清流が溜まる池に集まる蛍が其処彼処で光り、酒の肴には最高だったのだが……だからお前に日本酒は早いと言ったんだ。二度笑い、男は縁側に転がっていた徳利を引き寄せると夜空にそれを掲げた。まだ残っているな、ちゃぷん。僅かに聞こえた水音ににやりと口角を上げると盃へなみなみと注ぐ。男の名は岩融、彼の腕に凭れて眠る少女に使役される刀剣男子の一人である。
ここへ来て、人としての貌を成してから早半年。自分達を纏める審神者と呼ばれる彼女は岩融にとって義務や使命を差し置いても守りたいと思う 唯一の存在だった。そっと。真綿に触れるように優しく岩融は少女の髪に触れた。そう。二人は、いつしか恋仲と呼ばれる間柄になっていた。

「主よ、」

呼びかけても勿論反応があるわけもなく。岩融はその指先を更に髪に隠れている首筋へと滑らせた。
こんなにも簡単に触れられるほど、容易い道のりではなかった。小さく細い少女は触れたら壊れてしまいそうで、どうしていいか分からなくて。想いを交わした後も暫くは手を繋ぐことさえ上手くはいかなかった。其れでも、指先を先に絡めてきたのは彼女の方で。鉤爪の付いた手袋をしたままでも彼女は平気で自分に触れてきた。動物のそれとは違うと言っても『岩融さんは私を傷つけたりしない』と微笑んで。根拠の無い言葉でも 、信頼から生まれているのだと思えばそれが堪らず、酷く胸を満たした。
首筋は流石にくすぐったかったのか小さく身動ぎをしけれど更に岩融へと体重をかけてくる。といっても、彼女の体重などやはり苦になるはずもなく岩融は盃の中の酒を映り込んだ満月ごと呑み干すかのように一気に喉へ通すと彼女の身体をまるで掬い上げるかのようにして抱き上げ同時に自身も立ち上がった。

「…お前と酒を飲むのはもう少し先だな」

二人が盃を酌み交わしていたのは彼女の寝室として使っている部屋の縁側。 戸も開きっぱなしなので岩融は何の躊躇もなく彼女を抱き抱えたまま彼女の褥へとどすどすと大きな音を立てて踏み込んでいく。
近侍としても恋人としても彼女の寝室を訪れるのは稀なことではない。慣れた手つきで岩融は難なく明かりを灯しそして布団の側へと膝をついたのだが…。

「岩、とーし…さん」

きゅ、と気づけば彼女の両腕が岩融の首に巻きついていた。振り払えないほどの力ではない、けれど無理矢理振り解けば彼女は目覚めてしまうだろう。酒に酔って絆された腕は微かに季節の為だけではない熱を帯びて。試しに離して貰えるかと耳元で囁くも柔らかな吐息が返ってくるだけで。
されど柔らかいのは息だけではない。より密着したせいで薄い寝間着は彼女の身体の線を浮き彫りにする。岩融の鎖骨に触れるは彼女の豊満とまでは云えないが柔らかな……。

「誘っているのか」

そう呟いた時にはもう彼の掌は女の襟へするりと入り吸い付くような、夜闇に映える白肌に触れていた。左胸の形を確かめるように下から掬い上げれば甘い吐息が零れ落ちる。